探偵と興信所の教科書−探偵と興信所の仕事、基礎知識。探偵を目指す人すべての入門書

探偵が遭遇する危険

●うまい話には裏がある。高額の報酬は魅力的でも、命を落としては身も
ふたもない

最近の事件で、こんなことがありました。
ある探偵が、尾行調査の依頼を受けました。逐次、ターゲット(尾行対象
者)の状況を報告する依頼でした。
尾行を続けていくと、ターゲットがある飲食店に入りました。そこで調査
員は、「○○という飲食店に入った」と報告しました。
すると、数人の男が飲食店に現れ、ターゲットを殺害してしまったのです。
これは、いわゆる反社会的勢力の依頼だったのです。
反社会的勢力から、尾行調査をはじめとした依頼を受けることも少なくあ
りません。
もちろん彼らにも独自のネットワークがありますが、特に尾行は、人手も
かかり、ノウハウも必要なため、探偵事務所に依頼する場合も少なくない
のです。
もちろん、依頼するときに彼らが正体を明かすことはありません。
一般の依頼主を装って、依頼をしてきます。
そもそも、探偵事務所が依頼される仕事は、よほどのトラブルか切羽詰ま
った悩み、もしくは「よからぬ案件」の場合がほとんどです。受けていいの
かどうか、それをどのように判断するかは、きわめて難しい問題です。
ひとつには、「お金優先」で仕事をすると、トラブルに巻き込まれやすい
ことが挙げられます。
後ろめたい依頼者はお金で解決しがちであり、もしくは、お金や権力争い
など、何か大きなものがかかっているからこそ、少々のお金を払っても痛
くない場合が多いからです。
こうした「よからぬ依頼主」も含めて、依頼主の中には、探偵を勘違いし
ている人も少なくありません。
まず、探偵に何がしかの権力があると誤解している人は多くいます。
しかし探偵には何の権力もありません。捜査権限もないし、他人の家の敷
地に入ることもできません。
一般の人が見ることができない極秘資料を、何らかの権限で見ることもで
きないのです。
ところが、依頼主は探偵が何か特別なことができると誤解していますし、
できるかできないかを判断して依頼してくることはありません。
ですから、何とかなるだろうと思って依頼を受けてしまうと、後戻りでき
なくなり、やがて一線を越えてしまい、とんでもない事態に巻きこまれて
しまうこともあるのです。
それを防ぐためには、先ほどの説明と同じですが、「お金優先」で仕事を
しないことです。
高額の調査費を受け取れる依頼の場合は、まず疑ってかかったほうが賢明
です。次に、何をすれば法律に抵触するのか、どこまでなら許ざれるのか
、法令をきちんと勉強しておくことです。
冒頭のような殺人事件に巻き込まれることは例外ですが、トラブルは、さ
さいなことでも起こりえます。
例えば、ターゲット(尾行対象者)の性格や背景によっては、ターゲット
に見つかった場合、カメラを取り上げられたり、ときに暴力を振るわれて
しまうこともあります。
ターゲットが公務員や銀行員のような「真面目」な職業の人間ならそうした
心配もないのかもしれませんが、残念ながら、ターゲットがそういった大
人しい人間だとは限らないのです。
しかも、ターゲットがどのような人間なのか、依頼者は、肝心なところを
隠す場合も少なくありません。
また、すでにターゲットに尾行を見破られていながら、逆に、探偵が泳が
されている場合もあります。
泳がされている間に尾行の証拠を採られ、依頼主を苦況に落とし入れてし
まうこともあります。
そうなった場合は、確実に依頼主とのトラブルに発展します。
私は、尾行調査をする探偵に対して、「バレるぐらいなら、見失え」と教え
ていますが、これはこういったリスクもあるからです。
ちなみに、私はこれまで何千件と尾行調査を行ってきましたが、ターゲッ
トにバレてしまったのは、ほんのわずかです。
失尾(見失うこと)はもっとありますが、ターゲットにバレるのは最悪の
結果なのです。
「バレるくらいなら、見失え」―これは、忘れないでください。
尾行調査の最中などに、警察官に職務質問されることも日常茶飯事です。
特にターゲットが家の中にいて、探偵が屋外で張りこんでいる場合は、近
所の住民に通報されて警察官が来る場合も少なくありません。
職務質問されたら「調査中です」と正直に答えますが、ターゲットは明か
しません。
この応対は難しいところです。警塞呂は、探偵に対して好意的だとは限
りません。
それどころか犯罪者のように接してくる警察官もいます。
ターゲットを明かすことは、探偵として職業倫理に反す為ことですが、
それで警察官が納得しなければ、対応が難しくなります。
このときにも、必要なものは法律知識です。
他人の家の敷地に入っていたり、付近の住民に対して迷惑行為を行うなど
、法令違反を犯していなければ、路上で何をしても自由です。
それをきちんと説明するためにも、理論武装が必要なのです。
「よからぬ依頼主」か、どうかの判断は難しいと説明しましたが、かとい
って、依頼主に対して、根掘り葉掘り聞き出すのも問違っています。
「依頼主は、肝心なところは隠す」と説明しましたが、肝心なところを聞
くべきかどうかも、難しい問題です。
仕事上必要なことは聞くべきですが、余計に依頼主のプライバシーに立ち
入るべきではありません。
それに、必要以上に聞き出そうとすると、依頼は来なくなります。探偵は
警察官でもなければ、依頼主の家族でもありません。
もちろん、戯悔を聞く聖職者でもありません。依頼主を責める立場にはな
いのです。

【探偵こぼれ話】
殺人犯に接触していた!
何年か前、「失踪した夫を探して欲しい」と依頼を受けたことがあります。
依頼主の妻は、夫がいなくなって3日後に探偵事務所を訪ねています。
誰かかが失踪してわずか3日後に探偵事務所を訪れる人はほとんどいない
のですが、この場合は、後に妻の「直感」が正しかったことが証明された
ケースでした。
失踪した夫は、ある日の夕方に、取引先を訪ねたのを最後に行方が分から
なくなっていました。
夫の勤め先は小さな会社で、妻も仕事にかかわっていました。そのため、
会社からも妻からも比較的くわしく話を聞くことができました。
夫が失踪して初めて分かったことは、会社のお金が一部消えていることで
した。
消えた金銭をめぐって夫が失踪したことは想像つきましたが、それは仕事
上の金銭トラブルかもしれないし、女性関係かもしれません。
まず話を聞きに行ったのが、失踪した夫が最後に会った取引先の社員A氏
でした。
このとき、話を聞いた社員に不信感を感じたのです。不信感というより、
何か腑に落ちない感覚でしょうか。
他にも聞き込みに行きましたが、どうしても社員A氏にもう1回話を聞き
たくて、連絡を取ったのです。すると、1回目に比べてひじょうに協力的
な態度を見せました。
1回目に話を聞くときに協力的な人でも、2回目に聞きに行くと、不快感
を露骨に見せる人が少なくありません。これは、聞き込みで多く見られま
す。 
社員A氏は逆に協力的になったので、それもまた、おかしいと感じた点で
した。
もっとも、だからといって、社員A氏が犯人だと思ったわけではありませ
ん。何か隠していると感じた程度でした。
もちろん、失踪した夫がよく行く飲み屋まで、他にも聞き込みを続けまし
た。結局、夫は見つからないまま規定の調査期間が過ぎ、私は報告書を書
きました。社員A氏との会話は、かなり詳しく書きました。
それから数日して、社員A氏が夫を殺していたことが発覚したのです。金
銭トラブルによる殺人でした。
社員A氏は、まさにその日の夕方に夫を殺していました。私は、殺人を犯
したばかりの男に2回も話を聞いていたのです。
怪しいとは思いましたが、まさか殺人を犯しているとは思いませんでした。
しかも残虐な殺し方をしていたのですが、そんなことをする人間にはとて
も見えませんでした・・・。